2013年4月22日月曜日

著作権の移転が争われた事例(「チャングムの誓い」著作権侵害事件)


著作権の移転の「第三者対抗要件」と、文化庁への移転登録手続きについて

韓国のMBCが製作したテレビドラマ「宮廷女官チャングムの誓い」に出てくる小道具をめぐって、韓国の「キャッチスター」という会社が、日本放送協会(NHK)、NHKエンタープライズ、NHKプロモーションの三社を著作権侵害で訴えていた事件で、平成25年3月28日に、東京地裁は原告「キャッチスター」の訴えを棄却する判決を下しました。


(王の主治医となった医女についての記述がある韓国の歴史書)


訴えの具体的内容は、NHKら被告らが「宮廷女官チャングムの誓い」の展覧会を開催して小道具や衣装、ドラマセット等を展示し、関連グッズを販売した行為が、原告であるキャッチスターの上記小道具等の著作権(展示権及び複製権)を侵害したというものです。

訴訟における争点は、以下の(争点1)~(争点7)でしたが、裁判所は(争点3)のみを判断して、原告の請求を棄却しました。

(1) 「本件小道具等」が著作物であるか否か(争点1)
(2) 原告がMBCA(MBCの子会社で美術制作等を担当)から本件小道具等の著作権の譲渡を受けたか否か(争点2)
(3) 被告らが本件小道具等の著作権の移転登録の欠缺を主張するについて正当な利益を有しない第三者(以下「背信的悪意者」という。)に当たるか否か(争点3)
(4) 被告らが原告の本件小道具等の著作権を侵害したか否か(争点4)
(5) 被告らが著作権法45条1項に基づき本件小道具等をその原作品により公に展示することができたか否か(争点5)
(6) 原告の損害額(争点6)
(7) 消滅時効の成否(争点7)

裁判所は、争点3について、被告らと制作会社MBCAとの間の本件協約締結の時点において、原告がMBCAから本件小道具等の著作権の譲渡を受けたことを被告らが認識していたことを認めるに足りる証拠はなく、原告の著作権の移転登録の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情があることも窺えない、として被告らが背信的悪意者に当たるということはできないと判断しました。

加えて、裁判所は、本件小道具等の著作権の移転登録を経由していなから、原告は被告らに対抗することができないと判断しました。
そして、原告の請求は,その余の点につき検討するまでもなくいずれも理由がない。として、原告の請求を棄却しました。


「移転登録」と「第三者対抗要件」について

以上のように上記の事例では、裁判所は、著作権の「移転登録」が行われていていなかったため、「原告は被告らに対抗することはできない。」と判断しました。

一般的には、『「原告は著作権の譲渡を受けていない」→「原告は著作権者ではない」→「原告の請求を棄却」』という構図であれば判りやすいのですが、裁判所は、原告が著作権を譲渡されたか否かについては全く触れず、「移転登録の手続きを取っていない」→「第三者に対抗できない」→「原告の請求を棄却する」と判断しました。

では、「第三者に対抗」とはどういう意味なのでしょうか。
「著作権の移転登録」とは具体的にどういう手続きなのでしょうか。

「第三者に対抗できる」とは、「自己に権利があることを第三者に主張できない」ということ。

著作権は実体の無い「無体物」であるため、誰が権利者であるかを一見して判別することはできません。このため、著作権法では、取引の安全を確保するため、すでに効力の生じている権利関係の変動などを第三者に主張するための要件(第三者対抗要件)として、移転登録の手続きを求めています。つまり、移転登録の手続きを行っていなければ、第三者に対しては「私が権利者です。」とは主張できないということになっています。

逆に言うと、当事者間(権利を譲り渡す人(譲渡人)と権利を譲り受ける人(譲受人))の移転の効力は、移転登録の手続きを行わなくても、当事者間の意思表示により有効に発生します。
但し、当事者以外の第三者(例えば、著作権を侵害しているおそれがある者)に対して「私が権利者です。」と主張する場合には、移転登録が完了していることが必要となります。

●「著作権の移転登録」の具体的手続

著作権の移転登録手続は、文化庁に対して行う手続きです。
弁理士は代理人として移転登録手続きを行うことができます。

手続きは、登録権利者(譲受人)と登録義務者(譲渡人)の共同申請が必要ですが、登録権利者の単独申請も可能です(登録義務者から単独申請承諾書を貰う必要があります)。

移転登録には、18.000円の登録免許税を文化庁に納める必要があります。
弁理士や特許事務所に移転登録をお願いすると、上記の登録免許税以外に手数料(数万円)が必要となります。


今回の事例から理解して頂きたいこと

著作権を譲り受けた者が、第三者に対して権利を行使する場合には、文化庁に対して移転登録の手続きを行っていることが必要であるということ(移転登録が第三者対抗要件であるということ)。

但し、移転の効力自体は、当事者間の意思表示により有効に発生するということ。

まあ、当事者間であっても、口約束だけで、後々に「権利を譲り受けた」、「権利は譲渡していない」というような不毛な言い争いが生じるおそれがある場合には、著作権が譲渡された時点で移転登録手続きをしておくことも一案かと思います。

以上
(弁理士 森本聡)


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2 件のコメント:

  1. 「弁理士は代理人として移転登録手続きを行うことができます。」については、根拠条文は何でしょうか?

    もしも弁理士法4条3項の「契約その他の契約の締結の代理若しくは媒介を行い、若しくはこれらに関する相談に応じ」であれば、行政書士が遺産分割契約書の作成代理ができるので登記の代理もできてよさそうですが、現実には、行政書士は代理人として不動産の相続の登記はできません。

    この現実のアナロジーで行くと、弁理士は著作権についての移転の契約の代理や相談をすることができますが、著作権の移転登録の代理はできないのことになるのではないでしょうか?

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    1. jehabitatokyo様へ

      コメント有難うございます。

      まず、「根拠条文」について言いますと、弁理士会の「会員総合窓口のご案内」に係るウェブページ(http://www.jpaa.or.jp/topics/2010/samplekaiinsougou-sub.html)
      の「3.弁理士業務について」の「著作権の登録業務」の欄には、「著作権の登録業務は、弁理士法第4条の弁理士の専権業務に含まれていませんが、弁理士も行えると解されています。」と記載されています。

      ですから、「根拠条文としては明確では無い」というのが、ご質問に対する直接の答えになります。


      私は元行政書士ですが、行政書士時代に不動産関係の仕事はしたことはありません。
      ですから、不動産の相続登記が行政書士ができないことについては考えたことも無いのですが、できない理由は何なのでしょうか?
      その答えが、「司法書士の専権業務である」というのであれば、行政書士が、その手続きについての代理は不可能となることは論を俟ちません。

      してみると、著作権の移転登録の代理が、他の士業者(例えば、行政書士)の専権業務と決まっているというのであれば、弁理士は著作権の移転登録の代理はできないということになりますが、実際には、当該移転登録の代理は、行政書士等の弁理士以外の他の士業者の専権業務であるとは規定されていないのではないでしょうか(行政書士法等で)。

      それで、弁理士会も「解します」というような答えをしているのだと思います。

      まあ、私のブログの記載も「弁理士は、・・・できます。」としており、弁理士の専権業務であるかのような誤解を招く記載ではありませんので、当該記載にも問題無いものと考えます。

      以上です。

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