2013年4月26日金曜日

無効審決の取消判決の拘束力と訴権の乱用について


1. はじめに

最高裁大法廷(最高裁ホームページより)


私が初めて特許無効審判の審決取消訴訟に関わり、知財高裁から判決を頂いたときに、「この判決の拘束力は何処まで及ぶのだろうか?」「結論だけ?」「理由も?」「細々とした引用発明と本件発明の一致点や相違点の認定までも?」といったような疑問が生じました。

そこで、審決取消判決の拘束力について私なりに理解できたことを、この記事にまとめてみました。

なお、この記事では、無効審判請求に対して不成立審決がなされ、それに対する審決取消訴訟が提起されて、裁判所が取消判決を下し、それが確定した場合に限るものとします。すなわち、「無効不成立類型」の取消判決の拘束力のみを取り上げます。


2. 問題の所在

(1) 審決取消訴訟において取消判決がなされ、これが確定すると、審判官はさらに審理を行い審決しなければならない(特許法1812項)。つまり、取消審決が確定すると、必ず審判に差し戻される。

(2) この場合、一般の取消訴訟と同様に、取消審決の拘束力が働くため、審判官は判決の趣旨に従って行動しなければならず(行訴331項)、これによって紛争の蒸し返しを防ぐことが可能となる。

(3) そこで、この「取消審決の拘束力」がどの範囲にまで及ぶかが問題となる。


3. 無効不成立型訴訟における取消判決の拘束力についてのまとめ

(1) まず、審決取消訴訟の取消判決においては、拘束力が生じるのは、判決理由中の判断のうち、判決主文を導出するのに不可欠な法律上・事実上の判断についてである、と解されている。
つまり、拘束力は、判決主文に包含されているものに限られず、判決理由中の判断についても生じる、と解されている。最高裁の判例でも「拘束力は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたる」と説示している(最判平成4 4 28 日〔高速旋回式バレル研磨法〕)。

(2) したがって、原告の主張した取消事由12のうち、1は理由がないが2に理由があるとして審決取消の結論に至った場合には、取消事由2についての判断にのみ拘束力が生じる。

(3) 加えて、取消判決において、引用発明と本件発明の一致点や相違点を認定したうえで、判決理由を判断して、判決主文を導出している場合には、これら一致点や相違点の認定についても拘束力が生じるものと解する。つまり、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定として、引用発明と本件発明の一致点や相違点の認定がなされている場合には、これら一致点や相違点の認定についても拘束力が生じる。

(4) 判決の拘束力は、第2次取消判決(第1次審決⇒第1次取消判決⇒判決確定⇒第2次審決⇒第2次取消判決)にも及ぶ。

(5) 但し、審判の手続的な瑕疵をとらえて第1次取消判決で審決を取り消したとき、或いは実体判断をした場合であっても無効事由の存否を確定させない形で第1次取消審決がなされたときには、第2次取消判決における第1次取消審決の拘束力は限定的なものとなる。

これは無効不成立類型で第1次取消判決があった場合も、手続的な瑕疵をとらえて審決を取り消したときや、実体上の無効事由の存否を確定させなかった場合には、当該無効事由をめぐる紛争が解決済みであるとはいえないからである。

例えば、東京高判平成13 5 24 日平10(行ケ)267〔フラッシュパネル用芯材〕では、次のように述べて、第一次の取消判決では無効事由の存否が確定していないとした。

前判決は、先願発明においては、芯材として、複合シートを用いることが技術的に自明であると認定し、同認定を前提として、複合シートをコア材料として用いることが先願発明において自明のことであると認めることもできない、とした審決の認定判断は誤りであるとの判断はしたものの、先願発明と本件第1発明の構成が同一であるか否かについて、それ以上には何らの認定判断もしていない」。

そして、上記の点の事実認定に立ち入り、再度の無効不成立審決を是認している。

(6) 他方では、第1次取消判決の拘束力によっては無効事由の存否が確定していないとしつつ、実態審理に立ち入って、取消判決後の無効審決を是認した例もある(東京高判平成151014日平14(行ケ)99〔永久磁石直流モータ〕)。


4. 取消審決の拘束力を無視して同じ主張を繰り返すことは訴権の乱用となる。

(1)  取消判決の拘束力については以上であるが、確定した取消判決を受けて、改めて行われる審判の場で、取消判決の拘束力を無視した主張を繰り返し、その後に取消訴訟を提起すると、知財高裁から「訴権の乱用」との手厳しい指摘を受けることがある。

(2) 例えば、マルエージング鋼事件(知財高判平成19131日平17(行ケ)10716)では、知財高裁は以下のように述べて、原告に対して訴権乱用と指摘した。

はじめに本件は,被告を請求人とする本件特許の特許無効審判請求は成り立たないとした前審決に対して審決取消訴訟が提起され,同審決を取り消す旨の前判決がされ,同判決が確定した後,特許庁が特許無効審判請求について改めて行った審決に対する審決取消訴訟である。

ところで,行政事件訴訟法331項は,「処分又は裁決を取り消す判決は,その事件について,処分又は裁決をした行政庁その他の関係行政庁を拘束する。」と,同条2項は,「申請を却下し若しくは棄却した処分又は審査請求を却下し若しくは棄却した裁決が判決により取り消されたときは,その処分又は裁決をした行政庁は,判決の趣旨に従い,改めて申請に対する処分又は審査請求に対する裁決をしなければならない。」と規定している。

法は,行政処分等を取り消した確定判決に,単に,行政処分等の効力を遡って消滅させるという直接的な効果のみならず,これを超えて,行政庁に対して,取消判決における結論に至るまでの認定判断を受忍し,その趣旨に沿って判断をし,また行為をする義務を課すという積極的な効果(拘束力)を付与している。法が,行政処分等に対する取消判決(確定判決),このような積極的な効果を付与した理由は,違法であると判断されて取り消された行政処分等について,実質的かつ実効ある救済(是正)を迅速に図るためであることは明らかである。

上記の趣旨に照らすならば,特許無効審判事件についての審決取消訴訟における審決取消しの確定判決の拘束力は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断のすべてに及ぶことになる(最高裁判所平成4428日第3小法廷判決民集464245頁参照)。したがって,審決取消判決確定後に,改めて審理することになった当該審判事件における審理の範囲及びこれに対し不服がある場合に提起される審決取消訴訟における審理の範囲は,拘束力で遮断されていない主張,立証に限られることになる。

すなわち,改めて行われる当該審判事件において,審判官が,取消判決の認定判断に抵触する認定判断をすることは,行訴法331項に違反するという理由で許されず,また,当事者も,審決取消訴訟の認定判断に抵触する主張を繰り返し,その主張を裏付けるための立証をすることは許されない(当事者が,拘束力に抵触する主張を新たにすることが許されないことはいうまでもないが,さらに,既に行った主張も撤回すべきであり,審判官においても,審理手続において,争点の解消に向けて積極的な指揮をすべきである。)

(省略)

本訴訟において,原告訴訟代理人が,このような前判決において決着した事項について,延々と主張をすることは,司法審査の意義及び行訴法が確定した取消判決に拘束力を付与した趣旨についての基礎的な理解を欠く訴訟活動であるといえよう。

(省略)

原告訴訟代理人は,本件訴訟において,「本件審決は,前判決の文言をそのままなぞって理由を構成している。」,「本件審決に違法が生じた原因は,前判決に違法が存在していたことによる。」,「本件審決の違法を指摘することは,前判決の違法を指摘することに直結するので,理解を容易にするため前判決の違法性の要点を説明する。」との趣旨を準備書面に記載し(平成171119日原告準備書面,ただし不陳述),取消判決の拘束力の意義を無視した,独自の見解を前提として,その後の主張を繰り返している。本件訴えは,専ら確定判決の拘束力に抵触する失当な主張から構成されているが,裁判所がこのような訴えを適法な訴えとして許容することになれば,特許が無効として確定する時点を徒に遅らせる結果を招き,安定した法的地位を速やかに確立させることによって得られる公共の利益を害することになる。

このような本件訴えの特異性等に鑑みれば,本件訴えは,確定した前判決による紛争の解決を専ら遅延させる目的で提起された訴えであるというべきであって,その訴えの提起そのものが,濫用として許されないものと訴訟上評価するのが相当である。


参照(パテント2009  Vol. 62 No. 5 審決取消判決の拘束力―実務上の諸問題と義務付け訴訟の可能性― 東京大学教授 玉井 克哉)。

以上
(弁理士 森本聡)

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