2013年5月7日火曜日

映画データのプロテクト技術と改正された知的財産法について


皆さんの中で「リッピング」の経験のある方はおられますか?


「リッピング」とは、DVD-Video等に記録されているデジタルデータを、そっくりそのままの形またはイメージファイルでパソコンに取り込むことです。

私も数年前までは、レンタル屋でレンタルしたDVD-Videoからリッピングソフトを使って映画データをパソコンにリッピングし、これをDVD-ROMに落とし込んで、「コピーDVD」を作って楽しんでいました(流石に今はしていません)。

その当時使っていたパソコン内には、リッピング専用のソフトが複数インストールされており、「こっちのリッピングソフトがダメなら、こっちのリッピングソフトで」みたいな感じで、複数のソフトを使い分けていたことを覚えています。


勿論、映画の著作権者や管理団体等からすると、リッピングは海賊版DVDの作成に繋がる許しがたい行為です。
そこで、彼らはDVD-Videoの販売に先立って、1996年に世界中の技術者を集めて「Content Scramble System(以下、CSSと記す)」というコピーを防止するための統一したプロテクト技術を作りました。

「CSS」は映画データを40ビットの暗号キーにより暗号化するという大変複雑なものであり、技術者達は「これは絶対に破られないコピーガードだ。」と、相当の自信を持って世に送り出しました。

しかしながら、「CSS」は世に出てから僅か3年の1999年に全く意味をなさないものになってしまいました。
その当時15歳だったノルウェーの天才少年「ヨン・レック・ヨハンセン」が、いとも簡単にCSSを解除する「DeCSS」というプログラムを開発してしまったからです(確か、基本プログラムは、2、3日で作り上げたと聞いたことがあります。)。

因みにヨハンセン少年(通称「DVDヨン」)は、「DeCSS」を開発したことで、2000年にノルウェー検察当局から著作権侵害で起訴されましたが、「合法的に作られたDVD映画を購入した者が、製作者の想定しなかった方法でその映画にアクセスするのは合法」として2004年に無罪が確定しました。


その後のコピーガードやアクセスコントロールの進歩は、これを解除する技術との「いたちごっこ」になりました。

具体的には、CSSを解読するlibdvdcss、DVBスクランブルを解読するlibdvbcsa、CPRM/CPPMを解読するlibdvdcpxm、WMPのDRMを解読するFreeMe2、iTunesのDRMを解読するQTFairUse、Adobe FlashのDRMを解読するlibrtmpなど、新しいコピーガード技術やアクセスコントロール技術が完成すると、直ぐにこれを解除・無効化するソフトが開発されるという状態となりました。

今でも実際には「いたちごっこ」の状態は続いているのですが、各国政府は法律で縛りを掛けることを考え、我国では著作権法と不正競争防止法の改正を行いました。


それでは、改正後の著作権法と不正競争防止法では、具体的にどのような行為を規制しているのでしょうか。

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まず、不正競争防止法で、アクセスガードを解除したり無効化するための装置の提供を規制することにしました。


体的には、2011年12月に施行された改正後の不正競争防止法2条1項10号では、アクセスガードの規制を解除したり無効化したりするための装置やプログラムを譲渡等する行為が不正競争行為であると規定しました。これにより、DVD-Videoから映像データ等を吸い出すためのリッピリングソフトを提供する行為等は不正競争行為ということになりました。

営業上用いられている技術的制限手段(他人が特定の者以外の者に影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録をさせないために用いているものを除く。)により制限されている影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録(以下この号において「影像の視聴等」という。)を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能を有する装置(当該装置を組み込んだ機器及び当該装置の部品一式であって容易に組み立てることができるものを含む。)若しくは当該機能を有するプログラム(当該プログラムが他のプログラムと組み合わされたものを含む。)を記録した記録媒体若しくは記憶した機器を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入し、又は当該機能を有するプログラムを電気通信回線を通じて提供する行為(当該装置又は当該プログラムが当該機能以外の機能を併せて有する場合にあっては、影像の視聴等を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする用途に供するために行うものに限る。)


不正競争防止法2条1項11号
10号と似たような規定ですが、こちらはWOW WOWなどのような視聴規制のかかった影像等に対して、当該規制を無効化する装置やソフト等を譲渡等する行為が不正競争行為であると規定されました。

他人が特定の者以外の者に影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録をさせないために営業上用いている技術的制限手段により制限されている影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録(以下この号において「影像の視聴等」という。)を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能を有する装置(当該装置を組み込んだ機器及び当該装置の部品一式であって容易に組み立てることができるものを含む。)若しくは当該機能を有するプログラム(当該プログラムが他のプログラムと組み合わされたものを含む。)を記録した記録媒体若しくは記憶した機器を当該特定の者以外の者に譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入し、又は当該機能を有するプログラムを電気通信回線を通じて提供する行為(当該装置又は当該プログラムが当該機能以外の機能を併せて有する場合にあっては、影像の視聴等を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする用途に供するために行うものに限る。)

なお、不正の利益を得る目的で、又は営業上技術的制限手段を用いている者に損害を加える目的で上記の不正競争を行った者に対しては、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金、又はこれが併科されることになりました。法人に対しては3億円以下の罰金が課せられることになりました。

実際、2013年3月11日のINTERNET Watchの記事によると、DVDとブルーレイディスクに用いられている技術的制限手段を無効化するプログラムをCD-Rに収録し、ネットオークションで販売していた者が不正競争防止法違反で摘発されています。


以上のように不正競争防止法を改正した後も、個人がリッピングソフトを使ってDVD-Videoから映像データ等を抽出して複製を作ること自体は、著作権の複製権が及ばない「私的使用のための複製」に該当するため、全くお咎めなしという状態が続いていました。

政府は、このような個人の行為にも問題があると考え、2012年10月1日施行の改正著作権法では、私的に楽しむ場合であってもデータにコピーガードやアクセスコントロールが掛かっていることを知りながら、これを解除して複製を作る行為は、著作権の侵害行為になるとしました(著作権法30条1項2号)。

技術的保護手段の回避(第二条第一項第二十号に規定する信号の除去若しくは改変(記録又は送信の方式の変換に伴う技術的な制約による除去又は改変を除く。)を行うこと又は同号に規定する特定の変換を必要とするよう変換された著作物、実演、レコード若しくは放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像の復元(著作権等を有する者の意思に基づいて行われるものを除く。)を行うことにより、当該技術的保護手段によつて防止される行為を可能とし、又は当該技術的保護手段によつて抑止される行為の結果に障害を生じないようにすることをいう。第百二十条の二第一号及び第二号において同じ。)により可能となり、又はその結果に障害が生じないようになつた複製を、その事実を知りながら行う場合

ややこしいですが、要は、コピーガード等を解除したり無効化したりすること自体が著作権の侵害行為だとは言っておらず、コピーガード等が解除・無効化された著作物を複製する行為が著作権侵害だという規定です(コピーガード等を解除するだけで、著作権侵害ということになると、レンタルしたDVDや、買ってきたDVDも見ることもできなくなってしまいます)。

また、「その事実を知りながら行う場合」となっているので、知らなかった場合には、著作権侵害にはなりません。尤も、他の人がコピーガード等を解除し、その後に複製した場合には、「コピーガードを解除したのは自分じゃないから法第30条1項2号には該当しない」と主張できそうですが、今の時代に、普通の映画のデータにコピーガード等が掛かっていないということは考え難く、「コピーガードが解除されていることは知らなかった」と主張しても通らないと思います。

なお、技術的保護手段の回避を行うことをその機能とする装置やプログラムを公衆に譲渡等した者に対しては、3年以下の懲役若しくは300万以下の罰金、又はこれが併科されることになっています。コピーガード等を解除して、私的使用の目的で複製物を作成した個人に対しては、罰則規定は設けられておりません。



私見としては、コピーガードやアクセスコントロールを解除する技術というものは、暗号を解読する「複号化技術」の一種で、それ自体が技術の累積進歩に貢献するものであるため、これを一律に規制するのは如何なものかと思うのですが・・・。
何時の時代にも法律の穴を見つけて悪いことをする人がいるため、結局、「全部ダメ」という残念な結果になってしまいました。

以上
(弁理士 森本聡)

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