2013年5月9日木曜日

『万歩計』は登録商標(商標の普通名称化問題について)


2013年5月8日付けの「Sankei Biz」によると、『万歩計』は山佐時計計器株式会社の登録商標であるとのこと。


つまり、『万歩計』とは、歩数を計測する装置である「歩数計」の商品名であり、山佐時計計器株式会社の登録商標であり、一般名称や普通名称の類では無いということです。


私も知りませんでした。目から鱗です。


また、上記の記事によると、山佐時計計器株式会社は30年前に『万歩計』についての商標権を取得したとのこと。
特許電子図書館のデータベースを使って調べてみると、確かに山佐時計計器株式会社様は、商標『万歩計』について指定商品を「歩数計」とする商標権を保有しておられます(1984年に登録:登録第1728037号)。


したがって、例えば、「歩数計」のパッケージに「万歩計」と表記すると、山佐時計計器株式会社様の商標権を侵害することとなります(勿論、表記の仕方にも拠りますが、商品名であるかのように表記した場合にはアウトとなります。)。


しかしながら、私共、弁理士も含めて、世間一般では『万歩計』は、「歩数を計測する装置」の普通名称であると誤解されているようです。


実際、特許電子図書館のデータベースで、『万歩計』という言葉を特許請求の範囲(実用新案登録請求の範囲)、或いは要約に含むことを条件として検索すると、130件以上の特許公開公報と実用新案登録公報がヒットします。


つまり、残念ながら特許の世界でも「万歩計」や「万歩計機能」といった言葉が普通名称的に使われています(正しくは「歩数計」「歩数計機能」とすべきです。)。


今後は、弁理士などの特許明細書の作成に関わる者は、「万歩計」は登録商標であることをしっかりと認識しておく必要があります。


また、一般の方々も「万歩計」は普通名称では無く、登録商標であるということをしっかりと認識しながら、「万歩計」という言葉を使用していく必要があります。



普通名称化した登録商標


登録商標が普通名称化していくと、登録商標を商品に付しても、商品の識別機能や出所表示機能といった商標の機能が発揮されなくなり、商標権を取得した意味がなくなってしまいます。また、顧客吸引力が発揮されなくなるため、企業はその商標に対する独占的地位を失い、第三者の使用を排除するといった権利行使が不可能となり、せっかく築き上げたブランド価値が無くなってしまうおそれもあります。


このため、登録商標の普通名称化を防ぐために、企業である商標権者は無断で登録商標を使用する者に対して、その都度、もぐら叩きのように粘り強く、警告書や通告書といった形で登録商標の使用中止を求めていく必要があります。場合によっては、侵害訴訟を提起して、登録商標の使用中止を求める必要もあります。


しかしながら、実際には、一旦、商品名が普通名称化していくと、これを止めることは非常に困難となります。
このことは、以下に列挙するような名称が、かつては登録商標であったことからもわかります。

「魔法瓶」
1911年に大阪の日本電球が国産品第1号を開発し、同社が商標登録したそうですが、現在では、権利は無く普通名称となっているそうです。

「ナイロン」
かつてはインビスタ社(旧デュポン・テキスタイル・アンド・インテリア社)の商品名だったそうですが、現在ではポリアミド系繊維(単量体がアミド結合 (-CO-NH-) により次々に縮合した高分子)の総称となり、普通名称となっています。

「サニーレタス」 
レタスの普通名称であると、昭和57年に特許庁で判断されたそうです。

「ポケベル」
「無線呼出用携帯受信機」の普通名称であると、昭和62年に判断されたそうです。

「エスカレータ」
米オーチス社の登録商標でしたが、普通名称化したため1950年に権利を放棄したそうです。

「ホッチキス」
1903年に輸入販売を始めた伊藤喜商店(現イトーキ)の登録商標であったそうですが、現在では、権利は存続していないそうです。

「メカトロニクス」 
1972年に安川電機により商標登録されましたが、現在では、権利は存続していないそうです

「ホームシアター」 
1963年に八欧電機株式会社(現・富士通ゼネラル)により商標登録されましたが、1999年に無償開放されたそうです。

これら以外にも、「コーラ」「ヨーヨー」「ジッパー」「トランポリン」「セロファン」「ドライアイス」「ジャングルジム」「タブロイド」などは、かつては登録商標であったものの、現在は普通名称として取り扱われています。

また、商標権を所有していても、以下のように裁判所で普通名称であると判断される場合もあります。

「うどんすき」
大阪の有名な「美々卯」といううどん屋の登録商標であり、現在でも商標権は存続しているものの、普通名称化されたと東京高裁で判断されたそうです。

「正露丸」
大幸薬品の登録商標ですが、2006年に、不正競争行為差止等請求事件に関連して普通名称化したと大阪地裁で判断されたそうです。

「招福巻」
小鯛雀鮨鮨萬の登録商標ですが、2010年に大阪高裁で普通名称化されたと判断されたそうです。

「巨峰」 
「『巨峰』という語は、ぶどうの一品種である本件品種のぶどうを表す一般的な名称として認識されているものと認められる」と大阪地裁で判示されたそうです。

また、2002年にオーストラリアにおいて、SONYの登録商標「WALKMAN」は、ポータブル型の音楽再生機を示す普通名称であるとして、その占有権が取り消されてしまいました。



登録商標の普通名称化を防ぐための具体的手段


まず、登録商標を使用する際には、登録商標であることを示す「マルアール:®」を付記することが基本です。登録商標である商品名に併記して、それが登録商標である旨を併記することも一案です。


これは商品、或いはそのパッケージのみならず、商品の取扱説明書の中でも同様です。

尤も、取扱説明書の中で商品名が出てくるたびに「マルアール:®」を付することが困難であるというのであれば、商品名の書体を変えるなどの措置を採ることも有効です。


また、パッケージに使用する場合には、「登録商標である商品名」と「商品の総称名」とを併記して、「登録商標」が「商品の総称名」とは異なるものであることを明示すべきです。

例えば、商品名である「味の素」と、商品の総称名である「化学調味料」とを併記する、商品名である「ウォッシュレット」と、商品の総称名である「温水洗浄便座」とを併記するなどです。


第三者が普通名称的に登録商標を使用していることを発見した場合には、使用を止めるよう警告します。


マスメディアが不注意で登録商標を普通名称のように使用することもあります。この場合にはマスメディアに対して今後の使用は止めるよう抗議するとともに、望ましい使用方法を伝えることになります。



以前は、登録商標である商品名が普通名称化されると、商標権者である企業は、商品名が広く世間に知れ渡った証左である、そのジャンルの代表的名称となった証左である、商品の信頼度やブランド力がアップした証左であるなどと喜びましたが、実際には、登録商標の普通名称化は、登録商標のブランドとしての価値を低めるものにすぎず、メリットよりもデメリットの方が大きいように思います。


以上
(弁理士 森本聡)

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